*当記事は「オル・イン Vol.62 2021年冬号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


拡大しつつある投資適格プライベート・クレジット

11月の米国連邦公開市場委員会でテーパリングが決定したが、引き続き多くの投資家は低金利による運用難に直面している。ここ数年、そのような投資家の資金はプライベート・デットへ投資されてきたが、通常、その投資対象は小規模で、信用力の低い、非上場企業であることが多い。しかし最近、海外では投資適格と同等の信用力を持つ企業を投資対象とするケースが増えており、日本でもそのような投資適格プライベート・クレジット(IG PC)の運用商品が見られるようになっている。

頻繁に社債を発行する企業の多くは公募で投資家を募るが、私募の場合、諸規制や情報開示の義務を回避し、より早く、或いは、柔軟でカスタマイズされた形で資金を調達できるというメリットがある。一方、資金の出し手は保険会社が大半を占めており、その背景としては、規制上の理由からバイ・アンド・ホールドのような投資を選好する、また、長期負債にマッチする資産を求めていること等が挙げられるが、同様の理由から海外では確定拠出型年金によるIG PCへの投資が増えている。

IG PCへの投資の第一の利点は、公募債よりも高い利回りが挙げられるが、これは流動性が低いだけではなく、参入障壁が高いことにも起因している。IG PCと公募債の発行体は重複が少なく、また、案件毎にカスタマイズされることが多い為、資金の出し手としては専門のリソースが必要となり、結果として公募債よりも高いプレミアムに結び付いている。更に、重複が少ないことから投資先の分散が期待できること、公募債におけるコベナンツ・ライト(借り手に対する制限条項の緩和)は見られないこと等もIC PGのメリットとして挙げられる。

一方、デメリットは、流動性が低く短期間での資金化は難しいこと、市場規模が限られている中(年間の新規発行は1,000億米ドル程)、投資家の需要が増えており、新規投資の実行には1年以上要することが多い点が挙げられる。プール・ファンドを通じてIG PCに投資する場合、オープン・エンド型のようにファンドが一定の流動性を提供するものもあるが、その場合でも、原資産の流動性は低いことから、ストレスのかかった市場局面では資金化が非常に難しいことに留意が必要である。

いずれにしても、IG PCへの投資に際しては、長期的なバイ・アンド・ホールドの心構えを持つことが重要である。また、信用力や流動性の低さを許容できるのであれば、通常のプライベート・デットに投資する方がより高い利回りや流動性プレミアムを享受できると考えられ、投資家は自身に合った投資戦略を選ぶことが肝要となる。

執筆者:星野 実 (ほしの まこと)

資産運用コンサルティング部門 プリンシパル

拡大しつつある投資適格プライベート・クレジット