*当記事は「オル・イン Vol.61 2021年秋号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


給付超過制度の流動性管理

成熟化の進行や確定拠出型年金制度への移行により、給付支出が掛金収入を上回るようになった確定給付型年金制度が増えている。これまでは入ってくる資金をどう投資するか考えていたが、今やどこから回収するかを考えなければならない。多くは、政策アセットミックスの中心値を上回る資産を売却して給付に充て、政策アセットミックスを維持するよう努めていることと察せられる。

ここでは、政策アセットミックスを債務相当額に適用するアイディアを紹介したい。株式30%とする政策アセットミックスの下では、総資産の30%を株式に投資するのではなく、債務相当額の30%を株式に投資する。そして、総資産との差異については、給付にも充当できる債券等の安全資産で調整する。この政策アセットミックスを維持するように給付を捻出する時、従来の方法と何が異なるか。

一つは「剰余ではリスクを取らず給付支出に備える」ことだ。給付超過により資産の減少が見込まれる場合には、リスクはできるだけ抑えたい。同じ10%の損失であっても、今の10%と将来の10%とでは金額上の影響は今のほうが大きいためである。支出は率ではなく額で決まっている。剰余があるならそれは給付原資として確保しておきたい。株価上昇時の利益確定も、総資産対比で配分を定める場合より素早くこまめに行うことができる。

もう一つは「不足が生じても株式を売らない」ことだ。長期的には債券を超える利益を生む前提で政策的に投資している株式にとって、下落は一時的なものに過ぎない。総資産対比で株式比率を決めた場合、持ち続ければいずれ回復するかもしれない株式を、給付支出のために売却し損失確定することになりかねない。

剰余がある場合にはリスクが下がり、積立不足になるとリスクが上がるように見えるかもしれないが、金額上のリスクを一定に保っていると見ることもできる。給付超過状態にある年金制度の資産運用は、率ではなく額で考える重要性が増す。換金性の低い、いわゆるプライベート資産についても、債務相当額に対して投資比率(の上限等の目安)を定めておけば、債務予測を通じて10年後におおよそどのくらいのプライベート資産を保有できるのか見通しを立てることができ、また、強制売却の可能性も排除できるとなれば、投資計画を進めやすくなるのではないか。

ただし、剰余が極めて厚い場合や、給付超過がそれほど深刻ではない場合には、シミュレーション上は大きな効果となって現れない。個別の事情に合わせて検討いただきたい。

 

執筆者:今井 俊夫 (いまい としお)

資産運用コンサルティング部門 プリンシパル

給付超過制度の流動性管理