*当記事は「企業年金 2022年12月号」の「資産運用コンサルタントの視点」に寄稿した内容の再掲載


第8回 DBとDC資産運用面での比較

日本で確定拠出年金法が施行されたのは2001年10月1日であり、制度開始から20年が経過した。この間確定拠出年金制度(以下DC、特段の断りが無い限り以下では企業型DCを指す)の加入者数は順調に拡大を続けており、2021年3月末時点で約747万人となっている。一方確定給付年金制度(以下DB)の加入者は、2021年3月末時点で約933万人と現時点ではDCの加入者を上回っているものの、近年横ばいの状況にある。資産額(2021年3月末)については、DBの約67.5兆円に対し、DCが約16.4兆円(企業型)とまだまだ開きはあるが、マーサーにおいても最近DCに関するコンサルティングの引き合いが増加しているなど、企業年金におけるDCへの関心、位置づけは確実に高まっていることが窺われる。こうした状況下、DCに関する各企業の懸念の一つとして、DC加入者がうまく資産運用が出来るのか、という点があるように思う。本稿では特に資産運用面に着目し、DBとDCを比較していくこととしたい。

 

1. 運用方針の違い
 

DBとDCの運用目的について違いはあるであろうか。この点それぞれの根拠法における総則において、双方ともに「国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」との記載がある。すなわち制度こそ異なるものの、その目的については『高齢期における所得の確保』という点で共通している、ということになる。

DBとDCは目的は同じであるが、そのプロセスは異なっている。特に大きな違いは、誰が投資意思決定を行うのか、という点にある。DBでは基金、あるいは会社(規約型の場合)が意思決定を行うが、DCでは従業員個人が意思決定を行う。そしてDBでは積立不足が生じた際には母体企業が追加掛金を拠出するが、DCでは最終的に運用がうまくいかなかった場合には、その運用結果は運用者本人に帰属し、所得の減少を招くこととなる。また投資期間(タイムホライズン)はDBは制度が継続する限りは永遠に続くのに対し、DCでは遺産動機がある場合は別として、長くても本人の死亡時までであり、それまでの間に生じる支出を賄う必要があることから、DBより相対的に短いと考えられる。こうしたことから、リスク許容度という観点では、DCはDBよりも一般的には低いと考えられるであろう。以下では、実際の投資行動にどのような違いが生じているのか、という点についてみていくこととする。

 

2. 投資行動の違いとその評価
 

DBとDCそれぞれの資産配分についてみたのが図表1である。図表1をみると、内外の株式を併せた株式比率はDBが25.0%、DCが35.1%となっている。DBは近年株式の代替(あるいは債券の代替)としてオルタナティブを活用しており、この比率はDCを大きく上回っているものの、全体としてDCの方がリスクを取った運用を行っているように見受けられる。

(注)DCでは、バランス型への配分が18.9%あるが、標準的な配分である国内債券40%、国内株式35%、外国債券10%、外国株式15%として各資産に配分している。

 

図表1 DBとDCの資産配分( 2021年3月末時点)

国内運用機関のオルタナティブ提供状況
(出所)企業年金連合会『企業年金実態調査結果(2020年度)』、運営管理機関連絡協議会『確定拠出年金統計資料(2021年3月末)』

 

では、両者のパフォーマンスはどのような状況であろうか。図表2をみると、直近2年度こそDCのパフォーマンスがDBを上回っているものの、通算ではDCのパフォーマンスはDBをおよそ0.85%下回っている。ここでDBのパフォーマンスは基本的に運用報酬控除前である一方、DCは、投資信託等の信託報酬控除後であることから、実質的にはその差異は縮小すると考えられるものの、直近2年度の前は毎年度DCのパフォーマンスはDBを下回っており、その差はかなりの水準となっている。

 

図表2 DBとDCのパフォーマンス比較 

(年度) DB DC 差異
2014 10.08% 7.58% 2.50%
2015 -0.50% -2.18% 1.68%
2016 3.39% 3.16% 0.23%
2017 4.44% 3.25% 1.19%
2018 1.60% 0.40% 1.20%
2019 -1.26% -3.53% 2.27%
2020 12.26% 13.94% -1.68%
2021 2.93% 3.79% -0.86%
通算(年率) 4.02% 3.17% 0.85%
(出所)企業年金連合会『企業年金実態調査結果(2020年度)』、格付投資情報センター『年金情報』(2022年7月4日号)より筆者作成。DB(2014~2020年度)は、『企業年金実態調査結果』における企業年金の修正総合利回り。2021年度は『年金情報』より。DCは野村証券、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行の3社の集計利回りを『年金情報』が単純平均したもの。

 

先にDCの方がDBよりもリスク許容度が低いと考えられる旨言及した。そうすると、DCではリスクテイクに慎重となり、株式比率はDBよりも低くなることが想定される。それなのにどうして足元のDCの株式比率は高くなっているのであろうか。この点については、リバランスを行わない、あるいは直近株価が上がっていることで株式比率を増やす群衆心理など、DC加入者の非合理的な行動が大きな要因となっている可能性を指摘しうる。実際約10年前の2012年3月末には株式比率がDBの29.1%に対し、DCは15.5%と、DBの方がDCより約2倍も多かった。DC加入者が導入時に決めた配分をほったらかしにしたままにする傾向があることは日本のみならず、海外でも認知されている傾向であり、ここ10年で株式市場が大きく上昇したことで、自然とDCの株式比率が高くなったことが大きく寄与している。通算すると米国では市場の好不調を通じてみると、DCのパフォーマンスはDBのパフォーマンスより劣っているとの分析が多いようであり、日本がこれに反して長期にわたってDBを上回るパフォーマンスを獲得できると考えるのは早計だと考えられる。

さらに、これがより重要なことであるのだが、DCのパフォーマンスは、あくまでDC加入者の利回りの平均値であり、加入者全体がその利回りを享受できているわけではない。実際、『年金情報』によると、大部分が元本確保型100%で運用していると想定される、12か月間の運用利回りが0%~1%の加入者の割合が全加入者の36.2%も存在しており、リスク資産で運用している加入者とのパフォーマンスに大きな乖離が生じている。DCの場合、DBではほとんどみられない、運用収益をほとんど稼げていない主体が多くいること、またこれによって「高齢期における所得の確保」という目的に照らして、加入者間で大きな格差が生じている、という点は大きな相違であろう。

DBの資産運用も完璧とは言えないが、幾多の歴史を経て、ガバナンス面も含めてよりprudent(賢明)な運用へと発展してきたと考えられる。そうした中でDCの資産運用を改善するためには、DCの資産運用をDBのそれに近づけることが一つの方向性となろう。このためには、投資教育も勿論大事であるが、行動ファイナンスで示されるような加入者の非合理的な特性を踏まえると、限界があるのも事実である。DC加入者全体の運用を改善していくためには、デフォルトファンドとしてDB資産運用のエッセンスを凝縮した、ターゲットイヤーファンド等をもっと活用すべきではないかと考えている。

 

DBとDC資産運用面での比較