*当記事は「オル・イン Vol.66 2022年冬号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


2023年以降の年金運用を考える

主な注目ポイントとして、以下3つの点を挙げたい。

一つ目が、「インフレの行方と金融政策」である。2022年は、インフレ率の大幅上昇に対応するため、世界各国で政策金利が大幅に引き上げられたことで金融市場は大きな影響を受けた。2023年以降も引き続きインフレ率の行方と各国金融政策の方向性がマーケットに影響を与える大きなテーマとなると考えられる。足元では特に米国においてインフレがピークアウトしたのではないかとの見方もあるが、構造的にインフレフェーズに突入している可能性もあり、油断は禁物である。特に債券ポートフォリオにおいては、さらなる金利上昇(為替ヘッジコストの上昇を含む)も考慮に入れた対応の余地があると考える。

二つ目が、「世界経済の分断化」である。過去世界経済は、国際貿易の拡大や資本・人の移動の自由化、すなわちグローバル化の進展によって恩恵を受けてきた。こうした動きは、金融危機やポピュリズムの台頭を経て既に鈍化していた可能性はあるが、特にロシアによるウクライナ侵攻によって、グローバル化から分断化への動きが加速したとの見方がある。この分断化は、グローバルなインフレ率上昇の主要因であるだけでなく、中国と台湾の関係を始め、世界各国で紛争が起きるリスクも高めることとなる。今後金融市場でボラティリティが高まる局面も想定されるため、投資家はそれに耐えられるかどうかシナリオ分析やストレステスト等で確認しておくことも重要になってくるだろう。

三つ目が、「プライベート市場の動向」である。プライベート市場は近年投資家の注目を集めて拡大を続けてきた。この背景には、魅力的なパフォーマンス、公開市場で取引されないことによる低ボラティリティおよび伝統資産との低相関、さらに幅広い投資機会へのアクセスといったことがある。2022年においても公開市場における株式、債券、不動産(REIT)が下落する一方で、プライベート資産は相対的に値を保っており、ポートフォリオの収益下支えに貢献してきた。しかしながら、今後はプライベート市場にも公開市場の影響が徐々に表れてくると考えるべきであろう。特にプライベート市場のファンドは、ファンド設計の自由度が高いが故に、resilience(耐久性)に大きな差異が生じてくることが想定される。過去は株式市場が悪化したときに運用開始したファンドは高いリターンを計上しており、プライベート市場へは継続して投資していくことが重要だと考えられるが、今後の市場およびファンドへの影響については注意して見ていく必要があると考える。

 

2023年以降の年金運用を考える