2021年5月現在、コロナ禍が収束する目途は立っていない。一日でも早い収束が望まれる一方で、コロナ禍をきっかけとした人事領域における変化に我々は向き合わなければならない。今回は、昨今議論が活発化しつつあるバーチャルアサインメント*について考えてみたい。
*肉体的に海外へ渡航・居住をせず、本国(日本)に居住したままで、海外拠点の仕事に100%従事すること(既存の海外派遣者と同じ仕事をリモートで行うイメージであり、責任範囲が複数国に跨るために出張の頻度が多くなるような状況とは異なる)。
コロナ禍において、望むと望まざるとにかかわらず、多くの人がリモートワークを経験した。そして、当初の懸念を余所に、リモートワークを理由として業務に支障をきたしているケースは少なかった。むしろそのメリットに焦点が当たり、今後もリモートワークは継続される可能性が高い。マーサーが2020年12月に行った「リモートワーク制度化に当たっての労務・手当・福利厚生対応に関するスナップショットサーベイ」(N=320)によると83%の企業がリモートワークの恒常的導入を検討しているとあり、この予測を裏付けている。
海外派遣者も、今回コロナ禍を理由に一時帰国を余儀なくされたとよく聞く。その間、日本に居ながら海外拠点の仕事に従事し、「リモートワークでも意外と大丈夫」と思われた人は多かったのではないだろうか。国を跨いだリモートワーク経験を通じて「本当に海外に行く必要があるのだろうか」という発想は自然と生まれてくる。世帯の移動や居住を伴い、コスト負担が大きい海外派遣であるならば、なおさらである。こうした背景により海外派遣における新たな区分としてバーチャルアサインメントに関する議論が活発化しつつある。
具体的には以下が挙げられる。
上記メリットが自社の課題解決につながるか、という視点でバーチャルアサインメントの制度化を検討しても良い。一方で、上記メリットのみに焦点を当てて即物的に検討するのではなく、自社のグローバルビジネスの方向性とそのために必要な人材をどのように確保すべきか、というグローバルタレントマネジメントの視点で考えてみても良い。そうすることによってバーチャルアサインメントは、コロナ禍において一時的に議論されているものとして捉えるべきか、今後のグローバルモビリティにおける新しい頑強な派遣区分として捉えるべきか、その答えも見えてくる。
グローバルタレントマネジメント視点におけるグローバルモビリティの世界は次のようになる。
この課題に対する解決策としてバーチャルアサインメントを考えてみると、そのインパクトは大きい。
上記短期派遣区分、長期派遣区分、転籍等の選択肢にバーチャルアサインメントが加わることとなる。そうなると、日本人のみならず、グループ人材全体が候補者となりやすくなり、地球規模で適所適材が実現しやすくなるという変化も加わる(「人」ではなく、「仕事」を移動させることにより、適所適材を実現するという発想の転換も含む)。この変化を梃に地球規模での適所適材を更に目指すのであるならば、国籍を問わず公正に適用できる、派遣区分ごとのグローバル共通異動ポリシーも必要になってくる。そして、海外派遣者周りの業務に携わるモビリティの責任者・担当者の役割も変わる。これまでのように海外派遣ありきで、それに対応するという単一的な仕事ではなく、グローバルタレントマネジメントの観点であるべき取り組みを検討し、関係者へ働きかける姿勢が肝要である。
グローバルタレントマネジメントの視点でバーチャルアサインメントについて考えてみると、課題解決の手段として有効なものであることが分かる。これを梃にどう変革を加速させるかが、バーチャルアサインメントに関する議論における真のテーマとなる。
コロナ禍がなければ、この議論も今ほどは活発ではなかったであろう。コロナ禍の早期収束を願う一方、結果的にもたらされたこの議論、グローバルモビリティのあるべき姿の見直し、そして、それに向けた変革を加速させる機会ももたらしているのかもしれない。