ロボットとともに働くということ

「働き方改革」という言葉を聞かない日がないほど、わが国の企業における働き方に対する注目が高まっている。それに伴い、AIやRPA(Robotic Process Automation)の導入やその検討を開始する企業も着実に増加してきている。

近年、いくつかの研究機関によって、2020年までに7百万人分以上、2030年までに最大で世界8億人分の仕事がなくなる等といった発表がされた他、Oxford大学のオズボーン准教授が予測した「コンピューターにとってかわられる仕事」が話題になる等、個人レベルにおいては、現在の業務が機械にとって変わられることに対し危機感を感じている方も少なからず存在するのではないかと感じる。人事の世界でも一定のインプットを前提とした自動データ解析・リコメンデーションに関するHRテクノロジーは日々進化しており、我々コンサルタント自身、人間でしか出せない価値を生み出し続けられるようにレベルアップをしなければいけないと、ひしひしと感じている。

すでに広く知られるように、RPAとは「従来人間のみが対応可能とされていた作業、もしくはより高度な作業を人間に代わってできるルールエンジンやAI、機会学習等を含む認知技術を活用した業務を代行・代替する取組のこと」(日本RPA協会)である。

RPAは業務プロセスが定まっている定型業務を得意とするため、データの収集・出入力等を行うホワイトカラーの事務作業やバックオフィスワークを中心に活躍が期待されている。AIと異なり大量のデータを分析・示唆出しする業務は得意としておらず、あくまでも大規模システム化するほどのニーズはないものの、日常的に発生していた事務的な作業の自動化・代行を行うことが期待されている。

RPAの導入により、従来「ヒト」が行っていた業務を、「ロボット(RPA)」が担当することとなる。このことにより、

1) 単純作業によるミスの減少・業務効率化
2) 対応可能時間の長期化(24時間365日稼働)
3) コスト削減

といった大きなメリットがある一方で、従来該当業務を行っていた従業員に対しては、

A) 他業務への配置転換
B) 付加価値の高い業務への集中
C) 人員削減

などの対応が必要になる。

これまでの手慣れた業務からの配置転換や、場合によっては人員削減が必要となると容易な話ではない。弊社の知る限りでも、既にRPA導入で大きな効果を上げる一方、他業務への配置転換や要員調整に人事部門が苦慮する企業は増えてきつつあると感じている。

すでにミドルのバックオフィス業務の海外オフショア化が相当程度進んでいる英語圏の企業と異なり、これまで日本語の壁に守られ、オフショア先も中国大連など日本語対応が可能な一部エリアに限られていた日本企業にとって、RPAはバックオフィス業務のさらなる生産性改善の切り札の一つだが、その強力さゆえに、「副作用」から導入に二の足を踏む企業もあるのではないかと思われる。

一方、RPAを導入したからといって従来の仕事がなくなるわけではなく、いずれの場合においてもRPAの管理が必要となるため、イレギュラー対応を行う、RPA設計のような業務は新たに必要となる。さらに、従業員は「RPAと一緒に仕事をする」ことになるため、RPAを受入れ、ともに働くというマインドセットの習得が必要となる。円滑な導入を実現するには、当たり前の話ではあるが、単に「業務の効率化」ではなく、「業務を効率化することで何を目指すのか」、「単純作業から解放された従業員の付加価値をどの分野、業務で高めさせたいのか」まで考えた上で、検討することが好ましい。また、現在「どのような業務を」「どのような従業員が」「どの程度行っているか」に関しても、把握することが重要であろう。

新しい業務の習得は、既に既存の業務フローに慣れている中堅・シニアの方々にとっては心理的なハードルはあるかもしれないが、RPAに限らず、今後様々なテクノロジーが出てくる中で、常に業務を革新し、変革をリードするマインドセットは、組織階層や年齢によらず、あらゆる人々に求められてくる。

良くも悪くも既に個人のスタイルが確立したミドル~シニア世代が自ら変革をリードすることは容易なことではないかも知れないが、健康寿命の長期化と共にシニア人材のさらなる雇用延長、就業期間長期化が早晩現実的なものとなる中で、変革マインドの定着に向けた旗振りは、人事部門にとって間違いなく重要な仕事の一つとなってくるだろう。

マクロ的に見ると、今後日本は生産人口の減少という課題に直面している。内閣府よると「2020年までに約60万人分、2030年までに約79万人分の生産年齢人口が減少する」(内閣府 (2016), 2030年展望と改革 タスクフォース報告書)中で、RPAは人口減少に対する福音ともいえ、個人レベルで見ても、RPAにとってかわられにくいスキルを習得すれば、失業を免れる可能性は高いといえる。RPAを活用してより付加価値の高い業務に集中することで、本質的な生産性向上や残業時間の減少が期待できる。ポジティブに考えれば、従前より短い勤務時間で成果を出しつつ、空いた時間で自己研鑽に励む・または状況が許せば副業等を行うことで、収入減を補填するなどの取組みも考えられる。何より、これまでよりも自分で時間管理が行いやすくなることにより、個々の希望に沿ったライフ・ワーク・バランスが実現されるであろう。

さらに、各階層に求められる役割期待も変化するため、本格的にRPAが導入された後には、等級制度や評価制度の見直しも必要になる可能性がある。現在、初任担当者レベルの従業員でよく見られる「与えられた作業をミスなく・時間通りにきっちりとこなすことができる」といった期待役割が完全になくなることはないものの、新卒であってもより付加価値・創造性の高い仕事が求められてくる。

2020年まであと2年。筆者は先日出産したが、わが子が成長し、働き出す頃にはロボットとともに働くことが普通になっているだろう。今後の我が国や世界における教育のあり方も、より創造性や発想力を求められるような形にシフトしていくのではないかと思う。


 

執筆者: 後 有佳 (うしろ ゆか)
組織・人事変革コンサルティング アソシエイトコンサルタント