海外赴任者向け単身赴任者処遇の今後

毎年春に保育園の待機児童に関する報道を目にすると、自分の経験を思い出す。
何故なら、私も認可保育園に子供を入園させられなかった母親の一人だからだ。

実際には第6希望の認可保育園の内定は受けていたのだが、その認可保育園は最寄りの駅から徒歩で40分かかる場所にあったため、晴れの日は自転車に乗るにしても、雨や雪の日を含め6年間通い続ける自信が夫婦共々なく、どうにか駅に近い認証保育園を見つけ、そこに息子を預けた。

駅から遠いが広い園庭のある認可保育園と、駅から近いが古い雑居ビルの2階にある認証保育園を天秤にかけた末の苦渋の選択で、送り迎えで往復1時間以上無駄にするのであれば、少しでも子供と一緒にいる時間が増える駅近くの認証の方が良いと夫婦で決断した。

さて、他人事ではない昨今の保育園の待機児童増加の背景には、働く母親の増加があると言われるが、実際にそれほど共働き世帯は増えているのだろうか。

下のグラフは総務省が発表している専業主婦世帯と共働き世帯の比率である。
昭和55年と平成26年では、両世帯の割合は逆転し、平成26年の共働き世帯の数は専業主婦世帯の1.5倍となっている。特に平成21年度以降、共働き世帯の増加が著しいことが分かる。

出典) 内閣府男女共同参画局 『男女共同参画白書』 平成27年版 Ⅰ-2-9共働き等世帯数の推移

話は少し変わるが、筆者は、従業員を国外に動かす際の処遇の枠組みに関するコンサルティングや水準決定のためのデータ等を提供し、国を跨いだ人財の移動(モビリティ)に係る適切な処遇のフレームワーク作りと運用をサポートしている。
先に紹介した近年の共働き世帯の増加を、海外赴任者の処遇という側面で考えた場合、どのような議論が起こるであろうか。

例えば、今後、これまで以上に配偶者の就労を理由とした単身赴任が増えるかもしれない。
配偶者が退職あるいは休職した場合の収入減、あるいはキャリアの維持を懸念し、数年であれば・・と配偶者が本国に残留することを希望するケースだ。
そこで今回は、「海外赴任者向けの単身赴任者処遇のあり方」について、考えてみたい。

まず、現在の一般的な海外赴任の単身赴任処遇について触れておくならば、単身赴任者に対しては、残された家族向けの手当として、「留守宅手当」や「残留家族手当」といった名称で、何らかの手当を支給している企業が多いのではないかと思う。
これらの手当は、家族とのつながりを重視する欧米企業などにおいては、単身赴任を選択すること自体が珍しいため、一種日系企業特有の手当と言える。

日系企業のプラクティスに焦点を当てると、これら単身赴任時の留守宅関連手当の設定水準が高く、比較的高額となる企業もあり、単身赴任者の給与は帯同家族の1.5倍近くになる、留守宅手当が年間かなりの金額になるというような相談も珍しくないが、支給の要件として配偶者の扶養有無を条件とする企業が少なくない。
つまり、共働き世帯の配偶者が残留する場合には、留守宅手当は対象外としている企業が多い。

しかしながら、昨今の女性の就業促進を目的とした日系大手企業の国内給与における配偶者手当の廃止の動き等を踏まえ、扶養内の配偶者に手当支給を限定するこれまでの海外赴任者向けの単身赴任者処遇のあり方にやや違和感を持つ声も聞かれる。

そのような場合の一つの選択肢として、マーサーが提供するSTAAデータがある。

STAAとは、Short-term Assignment Allowanceの略である。本データは、当初開発された欧米で短期派遣向けとして作成されたため、この名称となっている。単身赴任、短期派遣いずれであっても、家族を本国に残して、赴任者のみ任地で生活することは変わらず、また、二重生活に伴う追加コストを補償するという目的は同じであるため、日本では単身赴任者用データとして紹介している。

下の図がSTAAデータによる処遇の基本的なコンセプトだが、STAAは、本国勤務時給与の手取額(ネット額)を本国で支給し、別途二重生活に伴う追加コストを会社が手当および福利厚生を別途任地で支給/補助するというものであり、比較的日本国内の単身赴任手当と考え方が近い。

このように、STAAデータを使用する場合には、留守宅手当のように残留している家族に対しての手当ではなく、二重生活に伴う追加コスト(生計費)のみを支給することになるため、配偶者の扶養の有無に関わらず、「単身赴任者本人の給与水準」のみが処遇水準を変動させるファクターとなる。

企業にとってのSTAAデータ導入のメリットは、国内の単身赴任手当と同じコンセプトを採用できることや、海外赴任時の留守宅手当は妥当性の検証が行いにくいのが実態であるが、本データを使用する場合には、第三者機関が提供するデータに基づき水準設定が可能であるため、一定程度、会社の恣意性を排除することができる点にある。

海外赴任者向け単身赴任者処遇のうち、STAAは一つの選択肢でしかないが、国内の単身赴任手当と近い処遇となるため、比較的理解を得やすいだろう。また、データ適用に配偶者の扶養有無は関係ないため、日本だけではなく、必要であれば海外を本国とする単身赴任者に対しても同じフレームワークを適用することができる。

最後に、共働き世帯の増加や超高齢社会への突入といった社会の変化に伴い、海外赴任者世帯への影響も変化する。

海外赴任者向けの制度は、国内制度と切り離されて考えられがちだが、今後も社会の変化に照らし合わせ、制度を変えていくことが必要だと考える。


 

執筆者: 佐藤 明日香 (さとう あすか)
プロダクト・ソリューションズ アソシエイト・コンサルタント