コンサルタントコラム 698
年金制度の国際比較 ~「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2015年度)」
塩田 強

執筆者: 塩田 強(しおた つよし)

年金コンサルティング シニア アクチュアリー 日本アクチュアリー会正会員 年金数理人 日本証券アナリスト協会検定会員

年金に関心がありますかと聞いて、どれくらいの方が関心があると答えるでしょうか。年金をもらうのが目前に迫らないと、将来の話なのであまり気にしたことがないという方が多いかもしれない。いつかは誰もが老後を迎えることになる。そのときになって初めて考えるのではなく、今年金のことを少し考えてみたいと思う。

本コラムでは、10月19日に公表した「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2015年度)」の内容について紹介したい。この「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング」は、2009年から日本を含む世界各国の年金制度を比較した指数ランキングとして毎年公表している。2015年度は、7回目の公表であり、公表のたびに多くの方から反響があり、興味深い内容として注目いただいている。この年金指数ランキングの見方については、どのように評価しているか分かりにくい部分もあるので、少し詳しく説明していきたいと思う。

まずは、年金指数ランキングの年金制度がどの年金制度を対象としているか説明したい。各国の年金制度を比較していると聞くと、公的年金を対象としているように考えるかもしれないが、年金指数ランキングでは、公的年金制度だけではなく、企業が実施している企業年金制度および個人貯蓄まで含めた老後所得にかかる保障制度全般を評価対象としている。

次に、どのように評価しているかを説明したい。評価については、年金額が十分かどうかの十分性、年金支給開始年齢や平均寿命等を勘案した年金制度の持続性、年金制度の運営・透明性等の健全性の3種類の評価軸で評価している。評価にあたっては、年金額の水準が高いからいいというだけではなく、年金制度の持続性・健全性等も勘案した評価となっている。

このような評価を基にした年金指数ランキングの結果を見てみたいと思う。日本のランキングは、昨年度と同様に、最下位から数えてインド、韓国に次ぐ25ヶ国中23位となった。首位はデンマークで、2012年より首位の座を保ち、4年連続で首位となった。十分に積み立てられた年金制度や、多くの加入者数、優れた資産構成と掛金の水準、十分な給付レベル、および法令の整った私的年金制度が首位となった主な理由である。デンマークと共にオランダ、オーストラリアは4年連続トップ3の順位を維持している。

総合指数によるランキング結果一覧

  各項目の指数
ランキング 国名 総合指数 十分性 40% 持続性 35% 健全性 25%
1 デンマーク 81.7 77.2 84.7 84.5
2 オランダ 80.5 80.5 74.3 89.3
3 オーストラリア 79.6 81.2 72.1 87.6
4 スウェーデン 74.2 71.1 72.6 81.5
5 スイス 74.2 73.9 68.4 82.9
6 フィンランド 73.0 70.7 61.8 92.4
7 カナダ 70.0 79.4 56.2 74.3
8 チリ 69.1 62.8 65.0 84.8
9 イギリス 65.0 64.2 51.3 85.5
10 シンガポール 64.7 55.7 65.9 77.2
11 アイルランド 63.1 77.0 36.2 78.5
12 ドイツ 62.0 76.0 36.8 75.0
13 フランス 57.4 77.2 36.6 54.9
14 アメリカ 56.3 55.1 54.4 61.1
15 ポーランド 56.2 61.8 40.6 69.0
16 南アフリカ 53.4 47.3 43.0 77.7
17 ブラジル 53.2 64.6 24.5 75.1
18 オーストリア 52.2 67.6 17.2 76.8
19 メキシコ 52.1 56.4 53.5 43.4
20 イタリア 50.9 68.4 12.1 77.4
21 インドネシア 48.2 41.3 40.1 70.8
22 中国 48.0 62.7 29.8 50.0
23 日本 44.1 48.8 26.5 61.2
24 韓国 43.8 43.9 41.6 46.8
25 インド 40.3 30.0 39.9 57.6
  平均 60.5 63.8 48.2 72.6

では、日本の年金指数ランキングが低い理由を少し考えてみよう。

1点目は、 ”所得代替率”(現役世代の年収と年金給付額の比率)が低いため、十分性の観点から見たときに評価が低くなっている点であろう。この所得代替率は、OECDが公表している公的年金および企業年金(欧州では職域年金)の所得代替率を用いて評価している。OECDが公表している所得代替率に基づくと、日本の所得代替率は50%未満となっており、老後の生活資金として年金以外の資金確保が必要な状況となっている。

2点目は、”年金の平均支給期間(年金支給開始年齢と平均寿命の差)”が長いため、持続性の観点から見たときに評価が低くなっている点であろう。平均寿命は日本が最も高い状況にもかかわらず、日本よりも高い年金支給開始年齢を設定している国もある。年金制度の持続性の観点で見ると、年金支給開始年齢の引き上げを真剣に検討していかないといけない状況にあると思われる。

今後、日本の年金制度の年金指数ランキングを良くするためには、上記の2点を向上することが必要とされる。所得代替率を引き上げるためには、「年金給付額の引き上げ」、「企業が実施している任意の退職給付制度の一部を、強制的に老後の年金給付とする制度の導入」等が考えられる。年金の平均支給期間を短縮するためには、「平均余命の延びに伴う公的年金支給年齢のさらなる引き上げ」、「高齢者の就労機会の延長」等が考えられる。すぐに改正することは難しいことばかりかもしれないが、各国でも年金制度の見直しが実施されている中で、日本でも何かしらの早急な対応が必要な時期だといえるであろう。また、今後、公的年金制度が見直されていく中では、老後の生活保障として公的年金だけに頼るのではなく、公的年金を補完する役割を担う企業年金制度の役割がますます重要になっていくと考える。年金指数ランキングが、年金制度の見直しをするきっかけとなれば幸いである。