コンサルタントコラム 684
「2015年世界生計費調査-都市ランキング」を読む

ゴルフもせず、マイカーも持たない筆者であるが、唯一の楽しみがある。それは10年来の趣味としているワインである。唐突な質問になるが、読者の方々は、人口1人あたりの国別年間ワイン消費量のランキングをご存知だろうか。2011年の国際ブドウ・ワイン機構の発表によると、1位がルクセンブルグ(49.8L)、2位がフランス(46.4L)、3位がポルトガル(43.8L)、4位にイタリア(37.9L)と続いている。1位がルクセンブルグであることに意外感があるかもしれないが、ルクセンブルグを含むヨーロッパの国がランキング上位を占めることは予想どおりであったのではないか。
一方、日本は52位(2.3L)とワインフルボトルにして3本程度と残念な結果となっている。近年、日本のワイン消費量は2011年当時と比べ増加していると思われるが、まだまだランキング下位に留まっていると推測できる。

さて、ワインの話しから外れるが、こちらもランキングの話である。本稿では、マーサーの2015年6月17日付プレスリリース『2015年世界生計費調査-都市ランキング』について紹介したい。この都市ランキングのプレスリリースは例年行われており、企業やメディアから一定の反響があるなど、興味深い内容として注目いただいている。ただ、筆者はこの都市ランキングを読むには、少々コツをつかむ必要があると思っている。そこで今年のランキングの特色も交えながら、その部分をお伝えし、読者がこの都市ランキングを読むお手伝いをしたいと思う。

まずは、この都市ランキングの基になるデータについて紹介する。この都市ランキングは2015年3月にマーサーが実施した「世界生計費調査」の結果に基づいている。今年の都市ランキングは、5大陸207都市において住居費、交通費、食料、衣料、家庭用品、娯楽費用などを含む200品目以上の価格を調査した結果を基に発表している。

都市ランキングの読み方のコツの部分になるが、最も見落とされがちな点は、マーサーの「世界生計費調査」は、一般的な物価指数を測る調査ではなく、企業や政府機関が派遣する海外駐在員の生計費を測るものである。加えて、今回発表されたプレスリリース用の都市ランキングは、ニューヨークをベース(派遣元)とし、ニューヨークを100とした場合の、各都市の指数を比較している。また、派遣元と派遣先の比較のための基軸通貨は、米ドルとしている。

もう少しわかりやすく言いかえてみよう。ニューヨークに所在する企業の従業員が、海外駐在員として別の都市に派遣され、派遣先の都市で、ニューヨークと同じ物やサービスを買うことができるには、米ドルでいくら必要かニューヨークを100とした場合の指数で比較したランキングといえる。これで、ランキングの前提がよりクリアになったであろうか。

ここで今年の都市ランキングの特色について触れたいと思う。詳細については、プレスリリースを参照していただきたいが、ランキングの上位10都市は、昨年に続き、アフリカ、アジア、ヨーロッパの都市が占めている。さて、筆者がやはり気になるのは、日本の都市の順位である。今年のランキングでは東京が上位10都市から消えている(2014年は7位)。東京の過去のランキングを調べてみたところ、これは都市ランキング史上初とのことである。東京が昨年よりランクダウンした主な要因は、日本円の価値が米ドルに対して低くなったことにある。東京のみではなく、世界の多くの都市で、昨年に比べて、現地通貨の価値が米ドルに対し低くなったことが、今年のランキング全体に影響を及ぼしている。

最後にコツの部分となるが、今回発表のプレスリリース用の都市ランキングには、外国人駐在員が一般的に利用する住宅の家賃を算出項目に含めている。そのため、海外駐在員向けの住宅賃料の変動がランキングに影響する。マーサーでは、海外駐在員の給与を算出する際には、住居費は別途手当として支給されるべきと判断していることはご留意いただきたい。

先に述べたように、都市ランキングには、物価変動はもとより為替変動や外国人駐在員向けの住宅家賃の変動が影響している点は是非おさえていただきたい。

話は、冒頭の年間ワイン消費量ランキングに戻る。筆者の年間ワイン消費量をランキングに照らして回想してみた。最も消費量が多かったと記憶する2007年頃で約52L/年(ワインボトル約70本)とランキング1位のルクセンブルグの1人あたりの年間ワイン消費量をわずかに上回っていた。しかし近年では減少の一途をたどり、日本の平均を上回るものの、大幅にランクダウンしている。為替変動にともなう輸入ワインの価格上昇がその理由として説明できるが、最も大きな影響は、我が家の緊縮財政であろうか。存分に趣味を楽しみ、日本のワイン消費量ランキングの上昇に益々貢献できる日が訪れることを願いながら、本稿を締めくくりたい。