コンサルタントコラム 714
ダイバーシティ推進の目的
松見 純子

執筆者: 松見 純子(まつみ じゅんこ)

組織・人事変革コンサルティング シニア コンサルタント

本年2月のWorld Economic Forum(ダボス会議)においては、初めてGender DiversityがIndustry 4.0や難民問題と並んで主要なテーマの一つとして取り上げられた。

この背景には日本を初めとする先進国における少子高齢化に備えた労働力人口の確保や発展途上国における女性の教育を受ける権利・社会的な地位が不十分、といった社会的な文脈もあるが、より大きな背景として変化の激しいグローバルな事業環境の中で企業が生き残っていくためには、Gender Diversityを含む多様性の確保が不可欠との認識が急速に進んでいるためと思われる。

世界各国の中でも、相対的に各企業におけるGender Diversityが進んでいる米国においては、一定程度マイノリティをいれなければいけないというコンプライアンス対応や、Corporate Social Responsibility(Diversity & Inclusionは「Right thing to do(正しい行い)」であるという考え)としての取組みではなく、企業としての持続的な発展のために不可欠な取組みとの認識が急速に拡がっている。

マーサーでは、2013年より『When Women Thrive, Business Thrive(WWT) ~女性が活躍するとき、企業も持続的に成長する~』という調査を世界レベルで実施し、企業の役員や人事部門の担当者にご回答いただいている。

本年の調査は全世界から647の企業・組織(従業員数320万人、うち女性130万人)が参加し、この種のサーベイにおいて広範な業種をカバーする最も包括的なものとなっている。

調査結果からグローバル共通に以下の傾向が見られた:

  • 各企業における現状の女性の採用、昇進、定着率は、10年後を展望しても、各階層における男女比率の改善には不十分である
  • 各企業は将来に向けた女性のパイプラインを十分に形成できずにいる(図1)
  • 現状各企業が集中的に取り組んでいる役員層への女性の採用や昇進のみでは、持続的な効果としては不十分である

 

図1) Internal Labor Market (ILM) Map
性別パイプライン状況

日本企業の回答状況について見てみると、グローバルまたは北米と比べて大きく異なる設問結果がある。

一つは「女性の活躍推進の自社にとってのビジネス上の効果を明確に認識している」という設問に対する肯定的な回答の比率である。グローバルでは強く同意するが34%、同意するも合わせた肯定的な回答比率が65%であるのに対して、日本では強く同意するは4%、同意するも合わせた肯定的な回答比率は36%に過ぎない。(図2)

 

図2) My organization believes there is a clear business case for improving gender diversity.
「女性の活躍推進の自社にとってのビジネス上の効果を明確に認識している」という設問に対する回答

また、おそらくこの結果として、「中間管理職のD&I(Diversity & Inclusion)に対する積極的関わり」という設問に対する肯定的な回答の比率もグローバルが39%であるのに対して、日本では14%と低くなっている。(図3)

 

図3) Middle Management is actively involved/engaged in D&I program/initiatives.
「中間管理職のD&Iに対する積極的関わり」という設問に対する回答

日本では、女性活躍推進法が制定され、この4月より301人以上の企業については自社の女性の活躍の状況に関する行動計画の策定や情報公表が義務付けられた。この法律が具体的な行動の契機に本格的な検討が進んでいくものと思われる。

しかしながら、その検討が、法律を受けた受身の考え、あるいは女性個人のためという狭い範囲に留まれば、これまでとは何も変わらないであろう。今後、日本企業も、自社の中長期的な事業戦略を実現する人材の確保に向けた包括的な人材計画を策定していく中で、自社にとってどのような女性活躍推進の形がふさわしいのかを検討し、事業をより強化する形で実現させていくことが望ましいと考えている。

参考)
ダボス会議におけるCEO Breakfastの様子(英語)
「When Women Thrive, Business Thrive 2016」レポート: エグゼクティブサマリー(英語) 無料ダウンロード
「When Women Thrive」ウェブセミナー: オン・デマンド(英語)
日経BizGate掲載 Pat Milligan, Mercer International Client Group Leader, インタビュー記事 「議論は尽くした、女性活躍推進へ行動のとき」