コンサルタントコラム655
海外駐在員の給与は国内給与の1.5倍なのか?

筆者が担当する会員企業の人事部長、人事担当役員の方々と話をする中で、ときどき「海外駐在員の給与は、日本の給与の何倍くらいになるのか?」、あるいは「海外駐在員の給与は、日本の給与の1.5倍ぐらいになる。」ということが話題になる。ひとりの海外駐在員を派遣するだけでも高額な費用が掛かることに対して、このように表現されるのである。

確かに、当社が紹介している購買力補償方式による海外駐在員処遇では、海外での生活に必要な費用としての任地生計費の他に、海外勤務に伴う精神的・経済的負担の代償として、また、海外勤務を魅力あるものにするために海外勤務手当1や任地によりハードシップ手当2というインセンティブが海外駐在員に対して支給されている。そして、さらに子女教育費補助、自動車補助、一時帰国旅費など海外駐在員に対する特有の福利厚生制度が施されて、これらのサポートに対する費用の支出も発生する。これらの費用を積み上げていくと日本勤務時の給与を上回り、会社の費用負担が増えるのは事実である。

1 海外勤務手当…駐在員とその家族が海外で生活する際、友人や会社の同僚から離れるための補償として、また異なる生活環境への適用を促すために支給される手当。
2 ハードシップ手当…生活環境が特に厳しい地域に駐在することに対する補償として支給される手当。

海外駐在員を派遣すると、特有の手当に対する費用が発生することは理解しつつも、経営層の方々としては出来れば突出した費用負担を避けたいと考えるものである。そうすると他社と同等の福利厚生制度を施した上で、「海外勤務手当の設定水準の動向は?」とか、「日本の給与の何倍が相場なのか?」という話になってくる。

では、経営層の方々に注目されやすい海外駐在員給与の日本の給与に対して何倍かという相場であるが、筆者は日本の給与に対する何倍など具体的な相場を把握することは困難であると常々思っている。

その理由としては以下の状況があり、いくつかの前提条件をもって相場を把握しなければならないという難しさがあるためである。

海外駐在員給与と日本での給与を比較する際に、外貨での支給分を一旦円換算し、日本円での総額により比較することになる。すると使用する為替レートにより、日本円に換算した金額が増えて見えたり、減って見えたりする。また、例えば、子女教育費補助は子どもを海外に帯同すれば費用が発生するが、単身赴任者や子どものいない海外駐在員については費用が発生しないなど、福利厚生制度の項目により費用の発生にばらつきが生じる。

このように変動要素が複数あることから条件付きでの比較をしなければならい。筆者は「日本での給与の何倍なのか」という議論を否定するものではないが、前提条件により倍数の見え方も変わってくることを理解した上で、目先の倍数の変化に一喜一憂されることなく海外駐在員処遇について考えていただければと思っている。特に、比較する金額が「手取り額 対 手取り額」なのか、それとも「総支給額 対 総支給額」なのか、比較対象が異なることで見え方も変わってくることにご留意いただきたい。また、海外派遣と言っても出張者、研修生、駐在員、出向者以外に研究機関等への研究員など企業によりいくつかの派遣形態が発生する。今後、これらの派遣目的に応じた処遇を踏まえて、社員を海外派遣する際のコストを論じていただく必要があるのではないだろうか。

円対USドルの為替レートは2008年9月のリーマン危機以降、円高・ドル安で推移し、海外駐在員給与の費用負担に関する話は鳴りをひそめていた。しかし、今年の8月下旬からの1ヵ月半で約8円も下落し、10月上旬に1ドル=110円という6年ぶりの円安水準まで下落したことで為替の動きに追随し、「海外駐在員の給与は、日本の給与の何倍くらいになるのか?」という話題が増えてきたように思う。しばらくは、この話題が続くことになるのであろう。

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