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<概要>
デジタル化の大波を受ける通信業界で存在感を示すKDDI。
伝統的な日本企業であるにも関わらず、個人のWILLの尊重を中心に据え、本格的な職種別採用や社内公募を含む「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入し、個人のキャリア自律を進めています。
当対談においては、WILL採用、社内公募、人財可視化等の実際の取り組みや現在直面している課題についてお話しいただきました。
白岩 徹(しろいわ とおる)様
KDDI株式会社
執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長
1991年に第二電電株式会社(DDI,現KDDI)に入社。
支社、支店での直販営業、代理店営業、本社営業企画部、営業推進部、カスタマーサービス企画部長など営業/CS部門の経験を経て、2013年人事部長
2016年総務・人事本部 副本部長
2019年4月より現職
2021年5月28日 HRインサイト対談の様子(インタビュアー:取締役 執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表 白井正人)
「KDDI版ジョブ型人事制度」の一番のキモは何だとお考えでしょうか?
社員一人ひとりがプロ人財となることを目指しています。
様々な改革の実施を経営層にYESと言わせた一番の決め手があれば教えていただきたいです。
経営層との密なコミュニケーションが大事だと考えます。経営の考えと人事の意思を対話を重ねることを擦り合わせていくことが、最終的に一体となって推進している元になっていると考えます。
一般職層は、下に行けば行くほどスキルの定義のグレードごとの「差」「区別」を設けるのが難しかったと思われます。どのようにされましたか?
グレード自体を大括り(基幹職は2区分)にしており、かつ、グレードの中のスキル定義も一定の大きさの括りにすることで、それぞれの差分にメリハリのつく設計としています。
ジョブ型のスコープは経営基幹職のみでしょうか?それとも一般職まで展開されていますでしょうか?
全社員を対象としています。
JDは職責を言語でモデル化し、そのモデルと比較するという評価方法と思います。組織長とインディビデュアルコントリビューターが混ざっていると思いますが、網羅するような言語表現にされたのでしょうか?
経営基幹職にはリーダー、エキスパートとともに同等の専門性を求めているため、そういった意味では網羅的に表現されています。リーダーはそれに加えて組織を牽引する観点が加わります。
ジョブグレードの算定をどのように行っていますか?
人事コンサルから得られる外部市場でのジョブ定義も参考にしながら、KDDIの事業・業務にマッチしたJDを作成しました。
Job定義の目的は、後継者管理でしょうか?異動の活性化でしょうか?
KDDI版JDは、評価、報酬、異動配置、任用、育成など幅広い目的で設定しています。
ジョブごとに報酬水準を変えたりしていますでしょうか?
現時点においてはグレードごとの報酬体系となっており、ジョブごとに報酬水準を設定することはしておりません。
報酬が増える人、減る人の両方が存在すると思います。日本的な終身雇用・年功序列を打破するためにどのように納得性を高めたのか、お聞かせいただけますでしょうか?
新人事制度の大義・必要性の腹落ちが最重要だと考えており、経営トップからのメッセージ、各部門を巻き込んだ理解浸透施策、人事からの対話ベースでの情報展開など、複合的な手立てをとっています。
「挑戦」を評価するという点、すばらしいと思いました。「挑戦」の軸での評価方法について、具体的にどのような指標でおこなっているのでしょうか?
成果挑戦評価は過去の実績を評価する賞与評価となります。具体的には発揮された成果や行動の度合いに応じて評価していきますが、特に挑戦評価においては、他部門と連携しながら起こしたイノベーション行動や自部門に留まる内容でも業務に対する改善行動の深さに着目して評価していきます。
人事評価に対する本業と副業の関係が気になりました。あくまでも評価は本業と紐づくものであり、"労働時間"管理はするものの副業と評価は関係しないという仕組みでしょうか?
副業は就業時間の20%までを充てられる制度としています。副業に従事する社員は副業で行う業務も自身のミッションとして設定することができ、そこで発揮された成果も評価の対象としています。
社内副業に関する実績、活性化のポイント、具体的な期待(社員、部門、会社)などを聞かせてください。
副業制度は昨年度から開始しており、上期は本体のみ、下期はグループ会社も対象に広げるなど、チャレンジできるフィールドを徐々に拡張していくことで制度の魅力度を高めています。
また社内副業をした社員の体験を社内WEBサイトで紹介することで、副業をより身近に感じていただく取り組みもしています。
社内・グループ内副業は、「成長できる」という一面でうまく機能しているのでしょうか。報酬、評価への反映などの工夫はされておりますでしょうか?
実際に副業を体験した社員の事例を社内にもオープンにしていますが、総じて好意的な評価となっています。経験の幅や視野の広がり、視座が高くなるなど、スキルの発揮や習得以外にも得られるケースが多くあります。また副業で行う業務も自身のミッションとして設定することができ、そこで発揮された成果も評価の対象としていますので、報酬へも反映される仕組みになっています。
ジョブ型に変更することにより職能要件が無くなるが、「キャリア受け身型社員」はマインドチェンジは発生したのでしょうか?
今まさに、スキル強化の必要性、マインドチェンジの促しに注力しています。特に新人事制度の必要性を当社の事情のみで語らず、社会環境の変化や世間情勢を踏まえたうえでのマインドチェンジの必要性を理解いただくよう浸透に努めているところです。
施策の伝え方や浸透施策のポイントは何でしょうか?
新人事制度が経営環境・社会環境の変化を踏まえたうえで会社の持続的成長のために必要なものである、といった大義をトップからも繰り返し発信するなど、マインドチェンジの必要性を理解いただくよう浸透に努めているところです。
浸透活動におけるポイントは「対話」と考えており、人事からの一方通行ではなく、各部門主体での浸透施策を展開したり、インタラクティブな場でダイレクトに意見交換できるような機会を多く持つなど工夫しています。
社員にキャリアの自律を促すことは難しいと思いますが、5つの施策を社員が受け入れやすくするために工夫されたことがありましたら、教えていただきたいです。
新たな人事制度を導入したからといって直ちに社員のマインドが変化するものではありません。ただ、変化を受けて入れていかなければ会社の持続的成長は見込めない、自身の経験を振り返ることでキャリアの方向性が見えることもあるため、先ずは自身の「得意」分野を一つ持っていただくようにすすめています。市場に通用するようなジョブ、というとハードルが高くなりますが、「得意な分野」と置き換えることで社員に分かりやすくするなどの工夫をしています。
バブル世代を中心とした人口ピラミッドの問題はございませんか? シニア層がポストを占めてしまい、中堅・若手に経験の場が回り難いということはございませんでしょうか?
旧来の年功序列色の強い制度ではそういったポストの順番待ち的な色合いもあったと思いますが、今回導入した新人事制度では、ジョブと役割が明確になっているため、それに合致しなければそのポストや処遇を得られない仕組みとなっています。逆にそれに合致すれば年齢に拘わらず登用できる仕組みとしているため、若手の積極的な登用につながっています。
1on1の強化のために、マネージャーひとりあたりのメンバー数はどれくらいですか?
リーダーの配下メンバー数に厳密な決まりはありませんが、組織の大きさによっては一人のリーダーが自組織のメンバー全ての1on1に対応できないケースもあるため、チームリーダーやプロジェクトを率いるエキスパートに1on1の権限を委譲することで管理範囲を調整することができるようにしています。
1on1は上司にとってはかなりの労力を要し、多くの業務を抱えながらの運用は難しいのではないかと想像します。この点、上司側の理解を得るためにどのような伝え方や工夫をしていますか?
1on1の重要性や1on1による効果を伝えると同時に、リーダー層の負荷軽減の取り組みも進めています。リーダー層が1on1に注力していただけるよう、経費や勤務承認などライン長が行う日常業務をDXを活用しながら軽減するなど、1on1のための時間創出に取り組んでいます。
1on1ツールを作る際に注意した点、工夫した点はありますでしょうか?
その時々の会話履歴を記録に残し、異動時には新しい上司が閲覧できる機能を具備することで、後の振り返りを容易にするような仕組みとしています。
エルダーに特化した人材公募の理由は何でしょうか?また、メリットには具体的にどのようなものが見られましたか?
社内の業務においてはエルダーであることが活かせる業務が多く存在しています。例えば当社の場合、社員の労働環境の整備のための社内カウンセラーを置いており、約40名のカウンセラーが年2回全社員と面談をしています。カウンセラーは過去のライン長経験や豊富な人生経験がある人の方が向いています。こういった分野に自ら手を挙げて従事することで、本人のモチベーション維持と社員カウンセラーの目的達成の両方を実現することができています。
会社からのキャリアの提示と研修ではなく、「研修費用の負担はするから行きたいのに行くと良い」とする方向性と思っていたので、LINK FORESTは意外でした。中身としてソフトスキル系を充実させたのでしょうか?
社員が自律的にキャリアを考え、目指す姿とギャップがある場合、一部の研修を除き基本的には自発的に研修に応募して参加する方式としています。人事本部ではソフトスキルを中心として研修を提供しています。コロナ禍で現在はオンライン研修が主流となっていますが、今後はLINK FORESTを活用し集合型研修とオンライン研修のそれぞれのメリットを生かしたハイブリッドの研修を目指しております。
経営層を育てるために会社主導のローテはどのような仕組みにしているのでしょうか?
サクセッションプランに基づく会社主導の異動はあります。取締役の「補佐」として1年間役員に張り付いて業務をする役員補佐制度は異動を伴って実施していますし、異動は伴いませんが経営層育成のための研修プログラムも実施しています。
社内人材マーケットの流動化を進めていくと、人気部門、不人気部門の隔たりが出てくると思いますが、制度的に制限等は設けているのでしょうか?
現時点はまだ制度が始まったばかりなのでそこまで流動化が進んでいるものではありません。当然、希望する(される)部門の差も出てくることは予想されます。制限等制度面からの整備は今度の課題と考えています。
ジョブ型雇用制度導入とゼネラリスト育成との整合性、人材の社内流動性への対応について課題感を持っています。
ジョブ型雇用におけるゼネラリスト的な人材の開発について一般論をご説明いたします。 ゼネラリストの意味あいが、将来のGMの育成であれば「サクセションマネジメントの充実」、本人のキャリア形成意欲に基づく幅広い専門性を持つ人材の育成であれば「キャリアアドバイスと公募制の充実」、専門領域に関わらず幅広い問題解決を行えるものの人材の充実ということであれば、「それ向けの職種設定やキャリアパスの明示」が考えられます。
ジョブ型(役割)と職能型のハイブリット運営での課題
ハイブリッドの意味合いは幾つかで使われますが、ここでは一国二制度で同一法人に二つの雇用区分が併存していると仮定します。この場合、マネジャーが二系統の人材マネジメントを行う必要がありその理解や手間がたいへんなこと、同じことをやっていても報酬格差が発生しやすくそれが不満の温床になること、結局のところメンバーシップ型の弱点であるキャリア自律は行われないことです。
職務のグレード格付に基づいた処遇を行う中で、社員のローテーションによる育成・配置をどういった形で実施できるか。DX関連職種の人材育成(リスキリング)など
一般的なジョブ型雇用を考えると、社員のローテーションとの相性はあまり高くなく、特に選ばれた人材のサクセションや個人の同意や公募に基いた異動が増加することになります。従い、選ばれた中核的な人材に関しては会社として計画的な配置を行い、それ以外の方にはキャリアガイドを示すのが一般的な対応と考えられます。DX人材についても同様ですが、短期的には中核人材の中途採用を行った上で、希望者の中からラーニングアジリティが高いものを周囲に配置する施策が一例として考えられます。
ジョブ型といえどもジョブをまたぐ異動は現実としてはまだあるとのことは良く分かった。異動の際、処遇(給与・手当)の変更で減額が発生することがあると思うが、その対応はどのようにしているか。本人合意をとるような運用を行うのか。
一般的な回答としては、会社都合の異動を減らしていく努力を前提としながらも、それでも異動による不利益が会社都合で発生するケースには、経過措置をとる、降格自体を当該個人に限り行わない、といった措置を見受けます。一方、メンバーシップの感覚が強い企業においては降格も行います。これは、不利益な変更に対する離職リスクの高さと関係していると思われます。
今後どのようにアメリカ版ジョブ型にあわせていくのか。
将来のことで予測が難しいですが、若年者、高度専門職を中心に、雇用の流動化、市場価値への意識が高まることで、企業側としてジョブ型雇用にならざるをえなくなり、その対応が増えるにつれ、よりジョブ毎の価格が形成されるのではないか、と考えています。
ジョブ型雇用での報酬体系のデザイン例を知りたいです。
一般的なロールモデルをお応えします。 ジョブ型雇用ですと多かれ少なかれ仕事に対する報酬となりますので、基本給、賞与、(場合によっては長期インセンティブ)が基本構成になり、それ以外は社員に共通的な便益を提供するベネフィットとして整理されることが多いと思います。(もちろん現実には手当が残ることも多くありますが、できるだけ減らすのが通常の考え方です)