2020年7月中旬現在、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は未だ収束の見込みが不透明な状態にある。日本でも再び感染者が増えてきており、第二波の到来の懸念が日々増しつつある。一方で、第一波の終息後、日本、アジア、欧米においては徐々に経済活動を再開している。
マーサーでは、3つのRモデルを提唱している(図1参照)。3つのRとは、Respond/ Return/ Reinventを表す。
図1:
感染拡大期には多くの国々で都市封鎖・ロックダウン等を発令し、経済活動に対して厳しい規制が行われた。企業は社員の健康・安全に配慮しつつも、事業継続のための施策を講じてきた。いわば緊急事態に対する対応、「Respond」の段階であると言える。
そして今、日本や欧米諸国は、経済活動を再開する「Return」の段階にある。世界経済が急速に悪化する中で、企業はその存続をかけて、スピーディーに効果の出る短期的な施策に集中することが重要だ。「Return」の次の段階は、「Reinvent(新たに作り直す・創造する)」の段階である。新型コロナウイルスの影響によって、デジタル化や新しい働き方の導入・実施が加速化されることになった。そして、ポストコロナの世界では、新しいイノベーションが求められる。企業がポストコロナを乗り越え、更に成長するためには中長期的に創造・イノベーションを生み出すことが不可欠である。
しかしながら冒頭で述べたように、新型コロナウイルスの感染状況によっては、「Return」の段階に移行した後に、再び「Respond」へ戻らざるを得ない状況も十分にあり得る。その意味で、感染状況に応じて、企業としては「Respond/Return/Reinvent」のどの段階にあるのかを見極め、適切な対策を講じることが重要だ。
では、「Respond」から「Return」に向けて、企業はグローバルレベルでどのような人事課題に取り組むべきなのだろうか。
短期的にはHRコストの削減・最適化が重要課題となる。図2を参照頂きたい。Respond/ Return/ Reinventのそれぞれのタイミングにおいて、講じるべき各種人事施策の例をまとめたものである。
図2:
*補足(図2の施策)
Respond
Return
Reinvent
施策については、要員、報酬、福利厚生、人事機能コストの4つのカテゴリーに分けている。人事コストを検討する際には、「要員数」×「一人当たりの人件費総額(報酬・福利厚生)」+人事オペレーションコストの3つの要素に分けて検討する必要がある。人事コストの削減・最適化となると、とかく、要員数の削減、あるいは、報酬・福利厚生の削減と短絡的にとらえられることが多いが、図2にあるとおり、打ち手は様々である。採用の停止、有給休暇の取得推進等、比較的実施しやすい施策もあれば、昇給停止、あるいは、報酬額のカット等、実施にあたって難易度がやや高い施策もある。
次に、「Return」から「Reinvent」において取り得る施策もご紹介したい。
グローバル視点で考えた場合、拠点閉鎖・整理解雇という施策もある。コスト面でのインパクトが大きいが、この施策を実施した場合には、当該地域・当該国において事業を再開することは非常に困難となる。政府関係機関が再び認可しない可能性が高いだけでなく、各社が求める優秀な人材を再び採用することも困難である。また、報酬において、水準そのものを下げる施策をとったり、長期インセンティブ対象者・水準カットを実施すれば、コスト面での効果はあるが、優秀な人材の流出リスクを伴う。
日本企業に比べ、欧米企業は人事コスト削減のために、「すぐにリストラを実施する」という先入観を持たれている方は多い。しかし、上述のとおり、拠点閉鎖、整理解雇、報酬水準のカット等は、欧米企業にとっても実施する際には慎重に行っている。HRコストの最適化に向けて、まずは、様々な施策をスピーディーかつ多面的に実施するのが肝要だ。
ポストコロナにおいては、Respond/ Return/ Reinventのタイミングを見極めつつ、幅広い選択肢の中から、各社にとって最適となる施策を組み合わせながら短期的施策、中長期的施策を実施していくことが求められる。