iDeCoという愛称がつけられたのは2016年のことであったが、当時20万人の加入者が、わずか5年の間に200万人の規模になった。新聞等でiDeCoに関する記事を目にすることも多く、iDeCoにとって追い風となる制度改正が続いていくと、今後も増加傾向は続くものと予想される。急拡大するiDeCoを踏まえ、企業型DCはどのように捉えることができるのか、筆者の考えを述べたい。
※DC:確定拠出年金制度
※iDeCo:個人型DC
例えば、福利厚生制度を充実させるために、下記のいずれかを検討している企業を想定する。
①企業型DCの導入
②現金手当を行い、iDeCoへの加入を促すこと
総合的に見た時に①と②のどちらが望ましいと言えるだろうか。簡単ではあるが、大きく評価すると以下のようになる。
以上を踏まえると、企業型DCの方が会社側の手続き負担は増加するものの従業員に対しては支援的であると私は評価している。上記に加えて、ここからは少し違う角度から同じケースを眺めてみたい。
本ケースの場合、企業型DCとiDeCoの関係は、以下の点において社宅と賃貸の関係に類似する。
住宅関連の制度の議論の詳細はここでは行わないものの、企業型DC=社宅・社員寮のようなもの、iDeCo=個人で賃貸契約するようなものと仮定すると、少し異なった視点から企業型DCを検証できると筆者は考えている。
メリット:家賃が安い。手続きが簡便。社員間のコミュニケーションが活発化する。
デメリット:選択肢の自由度が低い。いわゆるご近所付き合いが煩わしい。
上記でハイライトしたとおり、住む場所を会社が用意するか、個人で用意するかを検討した際に必ず出てくる論点として、社員間のコミュニケーションがある。では、老後の所得の確保を会社が用意するか、個人で用意するかを検討する際はどうだろうか。
社宅の例えで述べた通り、会社が用意する仕組みは社員同士の交流の活発化が期待できる側面がある。現状の企業型DCの投資教育は会社のご担当者の視点としては、煩わしいものとして、義務的な業務としてネガティブな文脈になることが多い。一方の従業員から見てもDCの投資教育を積極的に受けたいと思う人は少ない状況であると想像するが、従業員のウェルビーイング(Well-being)の向上を目指し、例えば投資教育を通じて社員間のつながりの強化を掲げることには一考の価値があると考えている。
筆者は、今後もiDeCoの加入者は増加し、iDeCoの拠出限度額が法改正により拡大し続けていくことを想定した場合、企業型DCを実施する意義が薄れていくのではないかと懸念している。しかし、企業型DCだからこそ、従業員の資産形成を力強くサポートできるコミュニティの強化が進んでいく未来に期待したい。