データでみるCheap Japan 報酬の日系・外資系比較

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日本の賃金は世界水準に大きく負けている。Cheap Japanだ!
このままでは欲しい人材は採用できないし、優秀な人材は辞めてしまう。日本の人材流出の危機だ!とメディアが書き立てる。本稿では、マーサーが実施する日本最大の報酬調査の結果データから、日本における日系企業の報酬を外資系と比較しながら俯瞰してみることにする。

 

外資系企業の賃金は日系企業よりもいくら高いのか?

日本における報酬動向を外資系企業・日系企業で比較すると、やはり日系企業よりも外資系企業の方が総じて賃金は高い。(図1)
直近5年間の推移をみると、スタッフ層の昇給率は日系企業の方が外資系よりも高いが、報酬額自体は差が広がっており、経営幹部報酬においては昇給率・報酬額共に、日系企業は外資系企業を下回っている。企業の昇給予算の使い方として、日系企業での昇給予算は従業員層に広く撒かれているのに対し、外資系では経営幹部層に集中投下されていることも見て取れる。
マーサーの報酬調査結果データの分析によると、日系企業は外資系企業と比べて昇進が遅い傾向がみられる。これを加味すると、若年層においては同職位の報酬差以上に実感として感じる報酬差が大きなものになっていることが考えられる。

参照:https://www.mercer.co.jp/our-thinking/consultant-column/824.html
 
 
図1:日本における日系企業と外資系企業の報酬水準比較(直近5年間)
*総直接報酬=基本給+諸手当+賞与(年次)+中長期インセンティブ(SO等)
*調査回答数:日系企業(2015) 57社(2019)105社、外資系企業(2015)350社(2019)574社

 

 

外資系企業の賞与と日系企業の賞与 何が違うのか?

職位レベルごとに、基本給、手当、賞与(年次)、中長期インセンティブの構成比率を比較してみる。(図2,3)賞与の基本給に対する割合(賞与率)を比較すると、スタッフ層では日系企業と外資系企業に大きな差はみられない。

注目すべき差としては、日系企業は職位が上がっても賞与率が変化しないのに対して、外資系では賞与率が段階的に上昇している点である。経営幹部に至っては、日系13%に対して、外資系27%と賞与率がほぼ倍。中長期インセンティブ率(基本給に対する)を加味すると、その差はさらに広がる。日系企業の報酬は外資系企業に比べて著しく固定的な報酬体系になっていることがわかる。

*日系企業に特有の報酬慣行として固定賞与があるが、本稿では人事院発行の公務員の給与パンフレット令和元年版を用いて、賞与を固定分と変動分に区分(管理職以上固定:変動5 : 5、一般専門職6 : 4)した。(人事院HP:https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/index.html)
*市場水準額は調査対象企業の回答金額の中央値を示している
 
 
図2: 日本における日系企業と外資系企業の報酬積上げ比較
 

*下記表1の金額は千円単位に四捨五入。金額はすべて年間支給額を示している
表1
 
基本給
手当
固定賞与
賞与
中長期インセンティブ
基本給に対する賞与%
基本給に対する中長期インセンティブ%
日系_
スタッフ
¥3,677 ¥275 ¥532 ¥355 ¥10 8% 0%
日系_課長
¥6,999 ¥408 ¥955 ¥955 ¥48 11% 1%
日系_部長
¥9,657 ¥484 ¥1,394 ¥1,394 ¥87 12% 1%
日系_
経営幹部
¥15,651 ¥595 ¥2,446 ¥2,446 ¥194 13% 1%
外資系_
スタッフ
¥4,802 ¥126 - ¥409 ¥43 9% 1%
外資系_課長
¥10,186 ¥208 - ¥1,679 ¥253 16% 2%
外資系_部長
¥14,835 ¥261 - ¥3,063 ¥499 21% 3%
外資系_
経営幹部
¥26,074 ¥347 - ¥7,075 ¥1,251 27% 5%
 
 
図3: 日本における日系企業と外資系企業の報酬構成比比較

 

 

報酬構成だけでなく、賞与支給ルールについても簡単に比較を行っておこう。
社長・経営幹部に対しては、日系企業は外資系企業よりも賞与が支給される最低目標達成率が低い。つまり、社長や経営幹部という経営のステアリングを握っているポジションにおいて、業績目標を達成していなくても賞与が支給されやすく、成果と報酬の連動性が低いと言えるだろう。逆に、管理職や一般・専門職となると、この数字は逆転し、外資系企業の方が賞与支給条件となる目標達成率が低く設定されている。ただし、日系企業では慣習的に固定賞与が支給される分、実質的な変動賞与の割合が外資系に比べて少ない。従って、この数字だけをもって日系企業が管理職や一般・専門職層に対して、賞与全体の支給ハードルを外資系よりも高く設定している、とは言いきることはできない。(表2)
最後に、賞与の支給上限率に着目する。
賞与に支給上限を設けている場合、上限は基準賞与に対する最大支給率%をたずねたところ、どの層においても、最大支給率%は外資系よりも日系企業の方が低い、つまり業績の高い従業員と業績の低い従業員間での賞与額差を持たせづらい体系になっていることが分かった。(表3)

 
表2:賞与の支給条件となる業績最低基準(目標に対する達成率)を何%に設定していますか?
 
日系企業
回答(平均値)
外資系企業
回答(平均値)
社長 66.1% 75.0%
経営幹部 61.4% 73.3%
管理職 81.7% 70.9%
一般・専門職 84.8% 71.2%
*のべ回答数:日系企業41、外資系企業866
 
表3:賞与の支給上限を水準額の何%に設定していますか?
 
日系企業
回答(平均値)
外資系企業
回答(平均値)
社長 125.0% 172.1%
経営幹部 136.6% 173.6%
管理職 144.9% 167.3%
一般・専門職 140.7% 165.6%
*のべ回答数:日系企業40、外資系企業632

 

本稿で述べた日系企業の報酬特性そのものは、驚くような内容ではないものの、一般的には実感ベースで語られることが多く、実際のデータで比較される機会は少ない。本稿に記載したデータが、自社報酬を俯瞰するきっかけとなれば幸いである。

 

執筆者:伊藤 実和子 (いとう みわこ)

プロダクト・ソリューションズ シニアマネージャー

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