海外に浸透する「OCIO」日本での導入意義は?

オル・インVol. 52 Summer 2019「金融プロフェッショナル」に掲載

マーサー
ウェルス・ビジネス・グロースマーケット代表
フィオナ・ダンサイア― Fiona Dunsire

投資対象資産の多様化や、マーケット環境の目まぐるしい変化―DB年金の資産運用を取り巻く環境は、この10年余りで激変した。そんな中、海外では投資家が高度な運用スキルを求めて、資産運用業務を外部の専門家にアウトソースする「OCIO(Outsourced Chief Investment Officer)」が広がりを見せている。海外におけるOCIO活用の実情と、日本での導入意義および課題について、このほど来日したマーサーのフォオナ・ダンサイアー氏に話を聞いた。

―最近、日本でも「OCIO」という言葉を耳にする機会が増えてきました。海外ではいつ頃から広がり始めたのでしょうか。

マーサーのOCIOのビジネスは2002年頃にオーストラリアでスタートし、2008年の金融危機の発生後に、積立不足に陥った欧米の閉鎖型DB年金を中心に急速に拡大しました。
閉鎖型の年金は多くの人的リソースを割くことが難しい中で、①広範な資産クラスのへ分散を図る、②負債サイドの状況に応じたリスク管理を行う、③時間の経過とともに起こる変化にタイムリーに対応する、といった課題を同時に解決していかなければなりません。そこで、外部の専門家に運用業務の全部あるいは一部をアウトソースする手法が選択されたのです。
伝統的な株式と債券だけのシンプルな分散投資が機能していた時代とは違い、今やさまざまなオルタナティブ資産等を組み入れなければ運用目標の実現は困難です。その点、スケールメリットも行かせるOCIOマネジャーを活用すれば、多様な資産クラスやマネジャーにアクセスできるうえ、市場環境の変化に応じた迅速な資産配分や、リスク配分の調整も可能でしょう。

―日本のDB年金にとっては、どのようなOCIOの活用方法が考えられますか。

日本のDB年金の予定利率は海外の年金と比べても低く、また近年は財政状況も積立剰余に転じているケースが少なくありません。しかし、国内金利が歴史的水準にあることを踏まえれば、予定利率を達成することは決して容易ではないでしょう。
さらに積立水準についても、資産のみならず負債も経済価値ベースで計算した場合、80~90%程度の水準にとどまっている状況と想定されます。将来の安定的な給付をより強固なものにするには、年金負債のプロファイルをより正確に認識し、それに応じて資産サイドで適正なリスクテイクをする必要があるのです。
したがって日本のDB年金においても、部分的にせよOCIOマネジャーを導入し、オルタナティブ資産等をさらに活用した収益追求ポートフォリオに転換させることが有効ではないでしょうか。

―やがて訪れる景気後退局面で、OCIOがどのように機能するかも気がかりです。

OCIOにおけるマンデートでは、いかなる市場環境でも目標とするリターンを一定のリスクの範囲で達成することが求められますから、景気後退局面こそが真価を確認できる時でしょう。
もっとも、マーケットのタイミングを読んでリターンの獲得を狙うのがOCIOの役割ではありません。平時から多様な資産クラスに分散を図り、下振れリスクに耐性のあるポートフォリオを構築しておくことがOCIO本来の使命です。
さらにガバナンス強化の観点からは、マーケット環境が悪い時にどのように説明責任を果たすかも重要になります。OCIOマネジャーを選択する際には、カバレッジの広さや報酬の多寡のみならず、きちんと説明責任を果たしてくれるか否かが大切なチェックポイントです。