マーサー 「グローバル年金指数ランキング」(2021年度)を発表 - パンデミックの拡大が年金の男女格差を助長する中、今こそ早急な改革が求められる

 

 

2021年10月19日

 

  • 年金の男女格差は複合的要因に起因するが、全ての年金制度に弱点がある
  • アジアの年金制度ではシンガポールが首位を維持、香港特別行政区、マレーシアがそれに続く
  • 日本の年金制度は43ヵ国中36位
  • 中国(本土)は大幅な年金改革によって最も制度が改善され、今回初めて調査対象に加わったアイスランドは首位の座を獲得
  • 当指数では、世界人口のほぼ3分の2を網羅する、43の国・地域の年金制度を比較検証

アジア - 中国の年金制度は世界で最も改善が見られ、従来のDランク(47.3)からCランク(55.1)に格上げされた。これは主に、純所得代替率の上昇と規制の改善、特に出生政策の最適化、定年の段階的引き上げ、国家主導の保障を補完する「第3の柱」の年金制度の整備などの取り組みによるものである。

 

今年度の第13回マーサーCFA協会グローバル年金指数(グローバル年金指数ランキング)1 には新たに4つの制度(アイスランド、台湾、アラブ首長国連邦(UAE)、ウルグアイ)が調査対象に加えられたが、シンガポールの制度は43の制度の中で10位とアジアで首位の座を維持し、香港特別行政区とマレーシアがそれに続いた。

 

1 グローバル年金指数は、世界の人口の3分の2(65%)を網羅する世界の年金制度を包括的に調査したものである。当指数は、世界各国の年金制度を指数化し、各制度の欠点を浮き彫りにし、より充実した、持続可能な年金給付を提供するために改革すべき領域を示している。

 

アジアでDランクとなったのはインド(43.3)、日本(49.8) 、韓国(48.3)、フィリピン(42.7)およびタイ(40.6)であり、中でもタイは世界全体において最低指数値であった。インドネシア、マレーシア、そして新たに調査対象に加わった台湾はCランク(それぞれ指数値は50.4、59.6、51.8)に格付けされた。香港特別行政区(61.8)はC+、シンガポールはB-(70.7)である。

 

各年金制度をサブ指数(持続性、十分性、健全性)により測定するグローバル年金指数(2021年度)の結果から、アジアの年金制度は依然として世界より遅れを取っていることが分かる。アジア全体の総合指数値の平均は52.2で、世界平均は61であった。

 

マーサージャパン 年金コンサルティングのシニア アクチュアリーであり、日本アクチュアリー会正会員 年金数理人の須藤 健次郎は次のように述べている。

 

「日本の順位の低迷は、長寿化のフロントランナーであるがゆえの宿命とはいえ、現役世代が抱えている老後への不安感の度合いを映し出している指標と捉えると違和感はないかもしれません。ただ、漠然と不安を感じるというのは健全な姿ではなく、まずは現状の制度を正しく理解することが重要です。その支援の場として、DCの投資教育は大変貴重だと思います。多くの企業がグローバル競争での生き残りをかけてジョブ型雇用の導入を検討している昨今は、企業に全てを委ねる従来型の働き方から、リスキルを通じた自律型の働き方への意識改革が求められる過渡期といえるでしょう。当然ながら全員が上手く渡っていけるわけではないため、セーフティネットとしての国の社会保障のあり方についても、マーサーとして提言していきたいと考えています」

 

2050年までに10億人近くの高齢者がアジアに住み、その3分の2が中国本土、インド、インドネシアの3つの市場で暮らすと推測されている。 65歳の平均寿命もさらに伸びる見込みで、アジア市場における女性の大半が2050年までに20年以上の老後生活を送ると予測できる。

 

CFA 協会アジア太平洋地域アドボカシー部門 責任者であり、CFAのMary Leungは、次のように述べる。

 

「COVID-19の間、アジアはその他多くの地域に比べると順調に進んできましたが、アジア市場の全域で早急な年金改革が求められています。歴史的な低金利、場合によってはマイナスの利回りが明らかにリターンに影響を与える非常に困難な環境下で、当協会は事業を行ってきました。女性は退職後の給付が少ないため、性別による年金格差にはさらなる課題があります。 政策立案者や業界におけるステークホルダーは、退職給付の十分正と持続性を確保するために全体として対策を講じる必要があります」

 

全体では、アイスランドの年金制度(84.2)が調査対象に加わった初年度に世界最高の評価を獲得し、オランダ(83.5)とデンマーク(82)が僅差で続いた。各サブ指数で最も高い指数値として、十分性、持続性ではアイスランド(それぞれ82.7、84.6)、健全性ではフィンランド(93.1)であった。制度最低指数値は、十分性ではインド(33.5)、持続性ではイタリア(21.3)、健全性ではフィリピン(35.0)である。

 

年金の男女格差

 

今年の調査では、全ての制度に内在する問題として、年金の男女格差を縮小するための改革が急務であることが浮き彫りになった。

 

経済協力開発機構(OECD)加盟国全体では、年金の男女格差(年金給付額の男女差)は平均26%であり、エストニアの3%から日本の50%まで格差の程度は様々である2 。当指数の分析では、年金の男女格差の原因は、雇用関連、年金設計、社会文化的な問題など多岐にわたっており、定年後の収入に関して女性が男性に比べて不利な立場にあることが明らかになった。

 

2 「女性の退職後貯蓄の改善に向けて」2021年3月、経済協力開発機構(OECD)により発行

 

アジア全域において、パンデミックは経済参加と機会における男女間格差をさらに拡大させた。アジア太平洋地域では、男性の雇用が2.9%減少したのに対し、女性の雇用は3.8%減少した。世界経済フォーラムは、2021年版「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」の中で、女性の再就職には時間がかかること、家事や育児を負担する可能性が高いこと、クラウド・コンピューティングやエンジニアリングなど「将来性のある仕事」の多くで女性が十分に活躍できていないことなどから、格差がさらに拡大する可能性があると警告している。

 

雇用に関する問題が主な格差の原因であることは一般的にも広く認識されている。例えば、女性のパートタイム労働者比率の高さ、子育てや介護のための離職、男性よりも低い平均給与額などである。しかし2021年度のグローバル年金指数では、年金の制度設計が格差の問題をさらに悪化させていることが明らかになった。これには、育児休業期間が年金給付の対象期間として義務化されていないこと、ほとんどの制度において子育てや高齢の親の介護期間に年金クレジットが付与されないこと、退職時に年金の物価スライド制が適用されていないことなどが含まれ、これらの要因が全て、平均寿命の延伸により女性にさらに多大な影響を与えている。

 

マーサーのアジア・ウェルス・ビジネスのリーダーであるJanet Liは以下のようにコメントしている。

 

「年金の男女格差を解消するために、雇用主は賃金における男女平等を確保するために積極的な役割を果たしたり、個人が金融リテラシーを向上できるよう促したりするなど、マルチステークホルダーの取り組みとする必要があります。私たちの調査では、老後資金の男女格差に対処しなくては、企業にとって人材の確保と維持という長期的なコストが掛かることを示唆しました。私たちは、今すぐ対策を講じる必要があります。

 

また年金業界は、雇用関連の年金制度に加入する個人に課される加入資格制限を撤廃するなど、制度の向上に向けて主導的な役割を果たすことができます。この施策は、アジアの働く女性の大部分を占めるパートタイマーや非正規労働者にも拡大適用できるでしょう。また、育児や高齢者の介護に従事する人々を対象とした年金クレジットを導入することで、それが理由で離職した人々を取り残さないようにします」

 

 

マーサー CFA協会 グローバル年金指数ランキング(2021)
※国別(アルファベット順)

 

マーサーCFA協会グローバル年金指数について

 

グローバル年金指数は、世界各国の年金制度のベンチマークとして、各制度の弱点を浮き彫りにし、より充実した、持続可能な年金給付を提供するために改革すべき領域を示している。

 

投資プロフェッショナルの世界的団体であるCFA協会がスポンサーを務め、モナッシュ金融研究センター(MCFS)とプロフェッショナルサービスを提供するマーサー (仕事そのものを再定義し、退職制度や年金の投資成果を再構築するグローバルリーダー)が共同で実施する研究プロジェクトである。

 

2021年度においては、世界中の43の退職所得システムを比較し、世界の人口の3分の2(65%)をカバーしている。今年は新たにアイスランド、台湾、アラブ首長国連邦、ウルグアイの4つのシステムが加わった。

 

各国の制度の総合指数は、「十分性 (Adequacy)」、「持続性 (Sustainability)」、「健全性 (Integrity)」に大別される50以上の項目から構成され、この3つのサブ指数を加重平均して算出している。

 

マーサーCFA協会グローバル年金指数の詳細についてはこちらをご覧ください。

 

 

 

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CFA協会は投資専門職の卓越性と資質の基準を設定する投資専門家の世界的な団体です。同協会は投資市場における倫理行動の推進者であり、世界の金融業界における知識の発信者として高い評価を得ています。投資家の利益が優先され、市場が最良の状態で機能し、経済が成長する環境を生み出すことを最終目標としています。また、世界の160の国と地域で175,000名を超える会員(CFA資格者)を有し、160のメンバーソサエティが所属しています。
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モナッシュ金融研究センター(MCFS)は、オーストラリアのモナッシュ大学ビジネススクールの研究センターで、金融業界における実践上の研究課題に学術的厳密さを持たせることを目指しています。また、エンゲージメントプログラムを通じて、学者と実務家の間の双方向の知識交換を促進しています。同センターの研究テーマは多岐にわたっていますが、現在は退職後に向けた資産形成、持続可能な金融、技術のディスラプションなど、資産運用業界に関連する問題に重点を置いています。

 

 


 

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マーサー はより輝かしい未来は築くことができるものと信じています。私たちはクライアントと共に、仕事そのものを再定義し必要な改革に導き、退職制度や年金の投資成果を再構築します。そして、真の健康とウェルビーイングへと導くビジョンを掲げています。全世界約25,000名のスタッフが43ヵ国をベースに、130ヵ国でクライアント企業と共に多様な課題に取り組み、最適なソリューションを総合的に提供しています。マーシュ・マクレナン(NYSE:MMC)の一員として、日本においては40年以上の豊富な実績とグローバル・ネットワークを活かし、あらゆる業種の企業・公共団体に対するサービス支援を行っています。

 

マーシュ・マクレナンについて

マーシュ・マクレナン(ニューヨーク証券取引所コード: MMC)は、グローバルプロフェッショナルサービスを提供する企業グループとして、顧客企業にリスク、戦略、人材分野の助言とソリューションを提供しています。マーシュ(保険仲介とリスクマネジメント)、ガイ・カーペンター(再保険仲介・コンサルティング)、マーサー (組織・人事マネジメント・コンサルティング)、そしてオリバー・ワイマン(戦略コンサルティング)から構成されており、年間総収入180億米ドル超、全世界に78,000名の従業員を擁し、世界各地の顧客に分析・アドバイスを提供しています。

 

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